(2019年8月7日 9:29 JST)
米中の通商政策を巡る対立が激化し、通貨戦争の様相を帯び始める中、ドル・円相場1ドル=105円割れの現実味が増してきた。市場では年内に100円の大台を割り込むリスクシナリオも意識され始めている。
「105円割れは時間の問題」。
三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチの内田稔チーフアナリストは、「米利下げの理由の一つである『見通しに対する不確実性』は最悪シナリオに向かいつつある」と指摘。
米連邦準備制度理事会(FRB)に対する利下げ圧力が高まり、それを織り込む過程で米金利が低下し、ドル・円の下押し圧力になるとみる。
105円を割れた後、円高はどこまで進むのか。
内田氏は「米国が景気減速で済めば、ドルも一定の強さを維持することで年内102円程度でとどまる」と予想。ただし、米国が景気後退まで行くというリスクシナリオでは、ドルが強さを失い、円が独歩高となるため「100円割れもあり得る」と指摘する。
JPモルガン・チェース銀行の佐々木融市場調査本部長は、米長期金利が2016年に付けたボトムの1.4%割れまで低下した場合に日米金利差との相関から算出される103円50銭までの円高は「あってもおかしくない」と分析。
ただ、100円割れについては、日本のお盆休み中などに円高方向へのオーバーシュートはあり得るが、今の相関では米金利が1.0%まで低下する必要があるため「考えにくい」とみている。
「デフレ的な世界」が終わる(為替フォーラム2019年8月7日)
[ロイター 東京 7日] – デフレ的な世界、つまり世界的な低インフレの時代が終わりに近づいている。
米連邦準備理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)に続き、日銀までもが金融政策のスタンスを変える中で、世界的な低インフレの時代が終わると言われてもにわかには信じられないだろう。
<市場が失った世の中の動きを数値化する機能>
まず、投資家が自身の腕前に対する信頼を喪失している可能性がある。
ブルームバーグは7月、「ファンドマネジャーのキャリア脅かす『みんなで渡れば怖くない』心理」という記事をウェブサイトに掲載。
今のファンドマネジャーは「『うまく行っているものを買う』、『人と違うことはしない』、『バリュエーションは気にしない』の3つの標語に基づいて動いている」と指摘している。
投資家が自身の腕前に対する信頼を失うのは、無理もない。
ここ数年の金融市場は、ファンダメンタルズよりも突発的なイベントに振り回されることが多いからだ。
とくにトランプ米大統領に代表される政治家の場当たり的ともいえる言動は、経済や企業のファンダメンタルズに基づく取引を一瞬にして無駄にすることがしばしばである。上述の3つの標語に基づいて動くことには一定の合理性があるだろう。
タイミングが悪いことに、世の中の様々な出来事を文字や映像で伝えるはずのニュースにはフェイクが混じり、やはり十分な機能を果たしていない。
報道に対する信頼が失われているのだ。
そのことは、政治家の場当たり的な言動を助長することはあっても、抑制することはないだろう。
結果として、不可能なことをあたかも可能なこととして約束する政治家が人気を集めることになる。世界中でポピュリズム的な風潮が強まるのは当然だろう。それは、既存の政治に対する信頼が失われたことを意味する。
こうしたポピュリズム的な風潮の強まりは、政策担当者の意思決定にも大きな影響を及ぼす。たとえば、最近の金融当局に対する政治家からの圧力は典型的だ。
政策担当者にとって悩ましいのは、低成長、低インフレという世界では政策の効果をはっきりと示すのが難しいことだ。
<仮想通貨が選ばれる時代>
経済政策が大きく間違えれば、金融市場を混乱に陥れるだろう。価格発見という本来の機能がすでに侵されているとすれば、投資家は金融資産を一斉に現金化することで、自分の資産を守ろうとするはずだ。リーマン・ショック後の金融市場はまさにそうしたことが起こったのである。
しかし、リーマン・ショック時とは異なり、マクロ経済政策への信頼は低下している。その際、投資家が求めるのはドルやユーロ、日本円など既存の通貨だろうか。
実際、近年、通貨が大幅に下落するなかで、外貨への交換も制限されたトルコでは、高級ブランド品に資金が集まったという。
中国で不動産投資が盛んな理由として、資産の海外への持ち出しが制限されるなかで、その保全手段として消去法的に選択されているという話も聞く。政策当局への信頼が極端に失われれば、物価には上昇圧力がかかる。
こうして、低インフレの時代は終わりを告げるだろう。
元安とNZドル安で市場心理悪化
[東京 7日 ロイター] – 正午のドルは前日NY市場終盤の水準から円高の106円前半。正午過ぎに105.93円までさらに下落した。
きょうの中国人民元基準値はほぼ市場予想通り。しかし、取引開始後に元がじりじりと下げ幅を広げる展開となり、米中対立への懸念が再び膨らむ形で、円が堅調な展開となった。
NZ中銀が予想を上回る0.5%の利下げに踏み切ったことも、金融緩和を通じた通貨安競争への警戒感を強めたといい、リスク回避的に円が買われる一因となった。
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