米中貿易戦争の長期化が影を落とす半導体産業

市場調査会社の米Gartner(ガートナー)は7月22日(米国時間)、2019年6月末までの市場などの動きを勘案した2019年の半導体市場予測を発表した。

それによると、2019年の半導体市場は、前回予想から下方修正され、前年比9.6%減の4290億ドルに留まるとしている。

○半導体市場に減速をもたらす米中貿易戦争

同社は市場予測を4半期ごとに市場予測の見直しを行っているが、前回の3月末までの世界の動向を踏まえた予測では2019年の半導体市場は同3.4%減の4580億ドルであった。

今回の予想で下方修正がなされたわけだが、この引き下げの背景として、ガートナー ジャパンのリサーチ&アドバイザリ部門で半導体/エレクトロニクス 主席アナリストを務める山地正恒氏は、

「3月末の予測では、米中の貿易紛争が解決に向かって、規制が緩和されていく、というシナリオを想定していたが、今回の予測では経済制裁の実施措置を踏まえたため」

と、長引く米中の貿易戦争の影響を要因の1つとして挙げている。

今回の予想は6月末に実施された米中首脳会談や、その後に出てきた日韓の半導体材料の輸出に関する問題、Sugon(曙光)をはじめとする中国のサーバ/スーパーコンピュータメーカーへの輸出規制などは含まれておらず、

「毎日のように状況が変化していく。前提条件をどのように設定するかで、かなりシナリオは変化していく」

と、先行きについては不透明感があるとする一方、

「米中の間で続く緊張が、どこかで妥協点が見出され、問題が解決に向かう」

との見方をしており、そうした結果、2020年には市場が反転の時期を向かえ、2023年には5667億ドルまで成長していくことが期待されるともしている。

○市場成長を阻害するメモリの在庫過剰

半導体の製品別カテゴリを見ると、スマートフォン(スマホ)ならびにデータセンター向けサーバの動きが鈍いこともあり、DRAMおよびNAND市場が大きく下げる予測となっている。

中でも記録装置としての利用価値があるNANDと比べ、リアルタイムでの情報処理に用いられるDRAMについては、新規アプリケーションを開拓する、という選択が難しいこともあり、2019年の価格は前年比42.1%減と大きく下がる見通しとなっている。

その結果、2019年のメモリ市場は前年比28%減と大きく減少するのに対し、メモリを除いたプロセッサやディスクリートなどの非メモリ市場はほぼ横ばい(若干の微減)と、大きく異なる動きを見せており、半導体市場全体のマイナス成長も、メモリ市場の動き次第、といった様相になっているという。

「基本的にはスマホ市場での苦戦が市場減速の主要因。メモリをそれほど多く使わない産業機器や自動車などの市場は比較的安定しており、今回の予想ほどのインパクトはない」(同)と、アプリケーション市場ごとに情勢が異なっていることを強調する。

半導体市場の成長阻害の要因となってしまっているメモリ市場だが、6月中旬に東芝メモリ四日市工場が停電の影響で生産が一時的に停止。

7月に入って、店頭から東芝ブランドならびにウェスタンデジタル(含むサンディスク)ブランドのNANDを採用した製品が品薄となってきているほか、日本からのレジストやエッチング材の輸出管理の強化に伴ってSamsung ElectronicsやSK HynixのNANDやDRAMがこれから品薄になっていくのではないか、との憶測が業界内で飛び交っており、一部のDRAM価格が上昇するなどの動きを見せている。

「ガートナーが毎四半期ごとに追跡調査している半導体在庫状況を見ると、実は危険水域を示す在庫量の値を2018年第1四半期に突破して以降、その水準は下がっておらず、2019年第1四半期および第2四半期はリーマンショックの際の過剰在庫を上回る状況となっており、ITバブル崩壊の際に匹敵する状況」

と山地氏は指摘する。

それを踏まえると、この1ヶ月程度で生じたメモリ市場に対する各種のインパクトは、逆に過剰な在庫を低減させ、半導体の在庫量を適正水準に戻す可能性もある。

「メモリに限らず全体的に2019年上半期は在庫が積み増しされ、その解消のために各社は売り上げを落とす結果となった。もし在庫が適正化されれば、2019年下期にかけて各社の売り上げは回復することが期待される」

と山地氏も指摘しており、需要が高まるかどうかは別として、在庫の適正化に伴う価格の適正化などによる市場の成長は期待できるようになる。

なお、同氏は

「これまで半導体業界を牽引してきたスマホの台数の伸びは鈍化し、現状の15億台前後から2023年まで見ても、ほぼ横ばいで16億台に到達しない。そうした中で期待されるのは、これまで半導体が搭載されてこなかったアプリケーションに半導体が搭載されるようになることであり、自動車におけるADAS/自動運転などをはじめとするなんらかの人間の作業を自動化しようという分野がどれだけ拡がっていくか、という部分が今後の半導体市場の成長を牽引していく可能性がたかい」

と、今後の市場の動向についての見方を示している。

トランプ米政権が中国による知的財産権侵害を理由とした制裁関税措置を発動してから6日で1年。

2020年秋の大統領選に向けた実績づくりを最優先に強硬策を連発した。

中国の激しい報復を招き、高関税の応酬となる「貿易戦争」の出口は見えない。

中国のハイテク産業も標的とするなど複雑化しており、長期戦を見込んだ多国籍企業が対米輸出の拠点を中国から他のアジア諸国に移転させる動きが加速している。

米中首脳は6月29日、制裁・報復関税の応酬を見合わせる「一時休戦」で合意し、貿易協議の再開を決めたが、対立の構図は変わらず、先行きは楽観できない。

米国は18年中に中国からの年間輸入実績の半分に制裁関税を発動済み。

残る全ての輸入品に対象を広げる交渉カードも手放してはいない。

米中摩擦は世界の貿易構造を急変させた。米国勢調査局によると、今年5月までに中国からのモノの輸入が前年同期比12%減少する一方、ベトナムからは36%、台湾は23%、韓国は12%それぞれ増加。

追加関税が課された中国産品の代替が進んでいることが浮き彫りとなった。

ピーターソン国際経済研究所は「対立が長引けば、生産コストの安い中国を軸とするサプライチェーン(部品供給網)は崩れる」と予想する。

米経済団体が5月に行った調査では、中国以外への生産拠点移転を検討もしくは既に一部移転したと回答した企業は全体の4割を占めた。

トランプ政権の対中強硬策は関税以外にも広がる。

安全保障上の懸念を理由にした

(1)対米投資規制の強化

(2)対中輸出管理の強化

(3)米政府による中国製品の調達制限

が18年に法制化された。

中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)などハイテク企業を厳しく締め付けるもので、「米国で政権交代があっても大幅に修正される可能性は低い」(米戦略国際問題研究所)。

トランプ大統領が火を付けた貿易戦争は当面終わりそうにない。

参考サイト


金融庁

経済産業省

財務省