株価は「過度の楽観」で今後さらに深刻になる

実態以上に戻り過ぎた「代償」を払う時が来る

東洋経済オンライン / 2019年3月4日

 

■株価は懸念した通り、戻り過ぎている

中期的な流れとしては、株価はいずれ大きく下落すると予想していたが、一方で「一般的に市場においては、株式市況が今のように期待し過ぎの状況に陥っても、それがさらに期待し過ぎになり、もっと期待し過ぎになる、ということは、しばしば生じる。

このため短期的には、アメリカの株価と並行的に、日経平均株価が2万1000円超で上値追いの様相を強めることもありうるだろう」とも書いた。

実際のところ、「懸念したように」足元の日経平均は2万1000円を超えて、上値追いの動きを強めている。

株価が上昇したことを「懸念した」とは何事かと、お叱りを受けるかもしれない。

もちろん、世界の経済や企業収益がどんどん回復し、それに連れて株価が上昇していくのであれば、喜ばしいことだ。

しかし後述のように、実体経済も企業収益も悪化の一途をたどり、深刻な状況へと歩を進めている。

加えて、国際政治も底流で悪い方向へと変わりつつあるようだ。
ということは、今の楽観にとらわれた株価(楽観に走り過ぎているのは、これも後述のように、株式市場だけではない)が、いずれ大きく下落することは不可避だろう。

昨年12月までの株価下落が余りにも急であったため、いったん株価が戻ること自体はおかしくない。だが問題は実態からかけ離れ上下に動く結果、その影響が深刻化することだ。

ここで仮に本来であれば、株価が1戻って、その後実態経済の悪化に沿って、3下落したはずだ、としよう。

もちろんこの1や3といった数字は、あくまでもイメージであって、実際の値幅を正確に表したものではないことを前提にお読みいただきたい。

すると、実体経済悪により、差引2だけ株価が最終的に下落することになる。この2の下落が、実態経済の悪化の程度に適合したものだとしよう。

ところが足元の株価の戻りが大きくなって、たとえば3上昇してしまうと、1だけの戻りを予想して空売りや先物の売りを行なっていた投資家が、上に担ぎ上げられて、追い証を求められ、買い戻しを余儀なくされる。

このため、短期的な株価上振れがさらに大きくなり、株価が4や5戻る展開になる。

すると、株価が上昇したことで突然強気になり、4や5の戻りが進んだ後で、大きく株式の買いを進める向きも出るだろう。

そこから7株価が下がれば、差引2の下落となり、前述のケースと同様、実体経済の悪化の程度に見合った下落になるはずだが、高値で買いこんだ向きが大いに損失を被って、投げ売りに走るかもしれない。

すると下げは7で止まらず、10株価が下がる、ということが起こるだろう。つまり差し引きの株価下落が、大きなものになってしまう。

■世界経済・企業収益実態の悪化は一段と進んでいる

こうした心配は、大半の読者の方にとっては、全く余計なことだろう。そこでこの話はここでやめて、経済や企業収益の実態面に話題を移したい。

日本では、2月の消費者態度指数(消費者心理を表す)は41.5と、1月の41.9から悪化した。2017年11月、12月、および2018年1月の44.6のピークからの悪化傾向が、いまだに止まらない。

このまま消費税率引き上げに突入すれば、結果は明らかだろう。

日米の企業収益見通しを、アナリストの平均値でみると、予想の下方修正が進む一方だ。

ところがこうした実態悪を、足元の市場は全く無視している。

それどころか、たとえば2月28日に発表された、アメリカの10~12月期の実質経済成長率(前期比年率ベース)は、7~9月期の3.4%から、2.6%に減速した。

ところが米ドル円相場は、市場予想(2.2%)より良かったともてはやし、米ドル高・円安が進んで、日本の株価を押し上げる展開となっている。

アメリカ株式市場の物色をみても、「懲りない物色」が進んでいるようだ。

2月28日付のブルームバーグニュースによれば、ヘッジファンドは投資先の集中化を進めており、ゴールドマン・サックスの調べによると、ヘッジファンドが多く保有するトップ10銘柄は、ファンドの買いポジションの7割を占めているという。

そのトップ10銘柄に多く見る銘柄名は、アマゾン、マイクロソフト、フェイスブック、アルファベット(グーグル)、アリババだそうだ。

 

こうした「花形銘柄」への物色の行き過ぎは昨年9月までの局面もみられ、そのしっぺ返しが10月以降に起こったのだが、また同じことを繰り返すのだろうか。

このような行き過ぎた楽観がさらに行き過ぎているのは、株式市場だけではない。

アメリカの社債市場では、一時売り込まれていたジャンク債(低格付け債)やBBB格債などが、再度買い戻されている。

諸報道によれば、すでにリスクを避ける時期は終わったとして、投資家が高めの利回りを求めて買い進んでいるという。

さらには、CLO(Collateralized Loan Obligation、ローン担保証券)と呼ばれる、低格付け企業への貸し付けを証券化した商品に、金融機関が買いを進めた模様で、高リスク投資に突き進んでいる点は、危うさばかりを感じる。

やはり2月28日付のブルームバーグでは、日本の金融庁はすでにこうしたCLO投資に警戒を抱いており、1月にはメガバンク3行や農林中央金庫などに、CLO調査に関する一斉調査を実施していたという。

■米中通商交渉が変化、さらに対日はどうなる?

こうした様々な市場の楽観の行き過ぎの背景には、「米中通商交渉の進展期待」という使い古された呪文が何度も唱えられた、という面もあるだろう。

これ自体、仮に通商交渉が穏当に決着したとしても、アメリカが2000億ドルの対中輸入について、10%の関税を25%に引き上げることを止める、というだけのことであって、すでに発動した関税を取りやめる、ということにはなるまい。

その点で、行き過ぎた楽観だと言える。

ところがこの「通商交渉の進展期待」という呪文が、どうも怪しくなっているようだ。当コラムでも何度か述べたが、米政権内はスティーブン・ムニューシン財務長官らの対中穏健派と、ロバート・ライトハイザーUSTR代表らの対中強硬派に分かれている。

足元は、ドナルド・トランプ大統領は穏健派に与していたようにみられる。おそらく、12月の株価下落で大統領はおろおろとおびえ、「早く何でもいいから、対中交渉をまとめよう」と恐れをなしたのではないか。

このため一時トランプ大統領は「3月1日の関税引き上げ期限より前に米中首脳会談を行なう」との意向を示していた。

こうした大統領の体たらくは、当然中国側も察知し、「アメリカからLNGや大豆の輸入を増やすと言えば、あとは何もする必要はないだろう」となめきっていたように思われる。

これでは知的財産権の侵害や先端技術移転の強要といった、肝心の構造問題に何も手が付かなくなる。

さすがにライトハイザー代表は孤軍奮闘し、3月1日より前の米中首脳会談を翻意させたようだし、中国政府の企業に対する補助金も含め、構造問題の改善を中国に迫っている模様だ。それでも、対中強硬派の分が悪そうな状況に見えた。

ところが、米朝首脳会談が突然決裂した。

こちらも、北朝鮮がアメリカを甘く見て、少しの譲歩で経済制裁を大きく解除してもらおうとした模様だ。

加えて、やはり外交面で強硬派のジョン・ボルトン大統領補佐官が、さっさと甘い形で交渉を進め、ノーベル平和賞でも狙おうというトランプ大統領の「ドナルド・ファースト」の姿勢を、諌めたとみられる。

これを米中間の交渉に投影すると、さすがにトランプ大統領が、アメリカの国益を軽視して、適当なところで対外交渉をまとめよう、という姿勢はまずいと思い始めたのではないだろうか。

そうした姿勢転換の背景には、アメリカ国内で元顧問弁護士のマイケル・コーエン氏が下院で証言し、大統領の足元が揺らいでいるため、対外強硬姿勢を示して、支持者の心をつなぎとめなければいけないと、心変わりしたことがあると推察される。

■日本にも弾は飛んでくる?

とすれば、今後の対中交渉では、ライトハイザー代表の声が優先される可能性がある。

すると構造問題で譲りたくない中国との間で交渉が決裂し、市場のこれまでの期待が裏切られる展開がありうる。

またライトハイザー代表は、3月中にも対日通商交渉を進めたいとの旨を表明しており、弾は中国だけではなく、日本にも飛んでくると覚悟すべきだ。

こうした諸要因を鍋に入れれば、やはり年央に向けての日経平均1万6000円シナリオが示現すると考えるべきだろう。そうした流れの中ではあるが、短期的な株価戻りがまだ続いてしまう可能性も踏まえて、今週の日経平均のレンジを2万1000~2万2000円で予想する。