【外為フォーラム】円高に導く「しつこい引力」、日米金利差を凌駕

ドル109円前半に下落、米中に「派手な殴り合い」の予感

 

2018年6月25日 / 14:39 /ドルは109.39円付近。

朝方から米ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)の報道が嫌気されている。午前の安値を下回り、円買いが強まっている。

WSJは、米国が産業上重要な技術が中国の手に渡ることを防ぐため、輸出規制の「強化」を目指しているなどと伝えた。

市場では「米中が想像以上に派手な殴り合いになりそうな感じになってきた。(米国が対中制裁関税を発動する)7月6日までに落としどころは見つかりそうになく、ここでポジションを傾けられない」(国内金融機関)との声が出ていた。

「米国へ対抗するため、北朝鮮に揺さぶりをかけ米朝間に亀裂を入れていこうという動きが中国に出てくる可能性がある」(同)との見方も出ていた。

 

コラム:円高に導く「しつこい引力」、日米金利差を凌駕

2018年の折り返し地点が近づく中、年初来の対ドル変化率をみると、円が最強となっている。

数多くの副作用を伴う異次元緩和を続ける日銀と、金融政策の正常化を進める米連邦準備理事会(FRB)との金融政策スタンスの違いはかつてないほど大きい。

それにもかかわらず、円安が進まないのはなぜだろうか。

まず、対外金利差拡大が円安材料としてさほど機能していない点が挙げられる。
現在、日米の長期金利差が約2.9%であるのに対し、ドル円の1年物インプライドボラティリティー(予想変動率)は8%台だ。

よほどリスクを好む投資家でない限り、これはリスクに見合う十分な期待リターンではない。

従って、外貨建て資産への投資は、為替ヘッジ付きが主流だ。
もちろん、米ドル建て資産に投資する際の為替ヘッジコストは3カ月物で年率換算約250ベーシスポイント(bp)まで上昇したため、ヘッジ比率が低下する過程で一定の円売りは生じたはずだ。

一方、ユーロの為替ヘッジコストは20bp程度の受け取りとなっており、ユーロ建て資産に対するヘッジ率は上昇したとみられる。

実際、大手生保各社の決算書を集計すると、ドルのヘッジ比率がやや低下したものの、ユーロのヘッジ比率が高まった結果、2016年度から17年度にかけて全体のヘッジ比率は若干上昇した。

つまり、一般的に指摘されるほど、円投を伴う対外証券投資フローが活発化しているわけではない。

事実、マイナス金利政策の導入が決まった2016年1月29日に121円台まで上昇したドル円は、その後、乱高下しながらも緩やかな円高傾向が続いている。

日本の対外金利差の拡大は、今後の円安進行期待を刺激する1つの材料だが、経常収支黒字国通貨である円を持続的に押し下げるほど、リアルな円売りが出続けるわけではないのだろう。

加えて、今年2月にみられた通り、米金利が上昇し、金利差が拡大する場合でさえ、それが株式相場の下落や新興国市場の不安定化を招くと、かえってリスク回避の円買いを誘発する点にも要注意だ。

<伝統的な2つの円高要因>

その経常収支は、昨年度約21.7兆円の黒字を記録するなど拡大傾向にある。
活発な対外直接投資や対外証券投資を受けて、日本の対外純資産は昨年末時点で約328兆円と、2位ドイツの約261兆円に大差をつけて世界最大の規模を維持。そこから日本へ還流する配当金や利息の増加が経常黒字の拡大を促している。

経常黒字の全てが円転されるわけではないが、潜在的な円高材料であることに異論はなかろう。

しかも、足元では米国の物価上昇圧力が増す一方、日本の物価の伸びは鈍ってきた。理屈の上では、このインフレ格差の分だけ、ドル円にはずしりとドル安円高圧力が加わってくる。

日本も安定的にデフレを脱したとはいえ、インフレ圧力が米国をしのぐとは考えにくい。

結局、地味ではあるが、ドル円はいまだに日米間の経常収支の不均衡とインフレ格差といった伝統的な2つの円高要因に直面したままだ。

<そもそも非現実的な「120円」>

ドル円の適正水準を考える上で参考となるのが相対的購買力平価だ。
起点次第で恣意性が生じる問題はあるが、世界銀行は国際比較プログラムの下で、広範囲に及ぶ商品やサービス価格を反映した、いわば究極の絶対的購買力平価を公表している。

最新データである2011年の107.454円を起点とすることにより、前述の恣意性はかなり排除される。

実際、国際通貨基金(IMF)はそれを踏まえて昨年末の購買力平価を100.66円、経済協力開発機構(OECD)が98.24円とそれぞれ算出。
平均すると99.45円だ。

この購買力平価から短期的な相場動向を論じるつもりはないが、一方でこの購買力平価から2割を超えるドル高円安水準へと乖離した局面が2回しかないことは事実である。

1回目は1980年代半ばだが、プラザ合意(1985年)によって、その後、ドル円は購買力平価を超えるドル安円高へと急落した。

2回目はドル円が125円台まで上昇した2015年6月にかけての局面だ。

当時は、実質実効相場を挙げ、一段の円安進行に懐疑的な見方を示した黒田東彦日銀総裁の国会答弁を契機にドル円はその後、下落。結局はそこがアベノミクス下でのドル円のピークとなった。

購買力平価から1割程度の乖離はいくらでも生じるだろうが、2割超えは実際には起こりにくいか、起こった場合の持続性も乏しい。

そう考えるとドル円が今後、仮にドル高円安に進む場合であっても、115円を超えて120円に近づくハードルは極めて高いだろう。

また、金利差が拡大する中でも円安が進まない一因に、この100円割れに位置する購買力平価から生じている「しつこい引力」が影響している可能性もあるだろう。

<トランプ大統領の保護主義は円高要因か>

さて、今後の相場を展望する上では、やはりトランプ米政権の保護主義が気になるところだ。

足元では米中間の交渉も激しさを増しており、こうした圧力の矛先が日本に向けられる可能性は低くない。

本来、米国の貿易赤字(日本の貿易黒字)の縮小はドル高円安要因だ。

ただし、トランプ政権は、今年2月の大統領経済報告に、経常収支不均衡を是正する重要なメカニズムの1つを為替相場の調節であると明記。

加えて、日本の自動車市場が米企業にとって閉鎖的との文言まで加えてきた。
確かに、国別でみれば日本は米国にとって3番目の貿易赤字相手国であり、予断を許さない。

ここで、興味深いのは、IMFが年1回発行する対外収支不均衡の分析レポート(External Sector Report)にて示される各国通貨の評価だ。

この中でIMFは2016年の実質実効相場でみて、人民元をおおむね適正と評価したのに対して、円は平均7%、韓国ウォンは平均10%も割安と評価した。偶然かは分からないが、足元の米中貿易摩擦において、少なくとも表立って人民元相場が議論されている様子はうかがえない。

一方、韓国は先の米韓自由貿易協定(FTA)再交渉の際、付帯協定として通貨安誘導を禁じる「為替条項」を突き付けられた経緯がある。

これらを踏まえると、7月とされる日米間の新たな通商協議「FFR」の場で円相場や日銀の金融政策が議題にあがる可能性は排除できない。

こうしてみると、ドル円は昔ながらの日米間における経常収支の格差とインフレ格差というドル安円高の重しを背負ったままであり、足元の金利差によっても、それを跳ね返すことは難しいようだ。

むろん、購買力平価よりも1割程度の円安水準を維持しているのは、日銀の金融緩和が円高へのブレーキ役になっているからだろう。

しかし、日銀の金融緩和は、副作用が累積していくと日銀も認めている通り、未来永劫続くわけではない。

投資家にせよ、事業法人にせよ、この粘着性のある日本の円高リスクと今後とも常に向き合っていく必要がある。(ロイター)

ドル109円半ば、弱含み 貿易戦争懸念拭えず

 

午後3時のドル/円は、前週末ニューヨーク市場午後5時時点に比べ、ドル安/円高の109円半ばだった。米中貿易戦争への懸念から日経平均が軟調に推移。全般的に円買いが強まった。

ドルは朝方につけたきょうの高値109.99円から、一時109.38円まで下落。6月11日以来2週間ぶりの安値をつけた。朝方から米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)の報道が嫌気されたが、午後は一段と下押し圧力が強まった。

テクニカル的に下値サポートとみられていた日足一目均衡表の基準線(109.75円付近)、同雲上限(109.67円付近)をいずれも下抜けている。

WSJは、米財務省が、中国資本が25%以上を占める企業に対して「産業上重要な技術」を保有する米国企業の買収を禁じる規則を策定していると伝え、市場では「米中が想像以上に派手な殴り合いになりそうな感じになってきた」(国内金融機関)との声が出ていた。

WSJによると、中国企業による米ハイテク企業への投資制限計画は最終決定ではなく、業界は発効までにコメントをする機会が設けられるという。

米国が対中制裁関税を発動する7月6日までには「落としどころは見つかりそうになく、ここで下手にポジションを傾けられない」(同)という。日経平均は午後、下げ幅を一時200円超に拡大。米10年国債利回りも一時2.86%台に低下した。

「米中貿易戦争」次は日米貿易戦争

ロイターの外為フォーラムに「米中貿易戦争」についての興味深い考察が掲載されていました。次は日米貿易戦争に突入すると。

中国との対立がヒートアップし続ける限り、トランプ政権は同盟国である日本との緊張関係を極力避けようとするだろうが、和解に向かうならば、遠慮なく日本をたたくかもしれない。とのこと。

そうなれば、円相場について、過去の報告書では実質実効レートでの割安のみに言及していたのに対して、今回は名目レートでも割安だと指摘した米財務省が13日に公表した半期為替報告書は、日本を引き続き監視対象国に指定し、日米貿易不均衡の大きさに改めて懸念を示している。

つまり、日米貿易摩擦と円高に向かっている。というのだ。

最近の金融市場は「米中貿易戦争」をにらみつつ日替わりメニューのように強気と弱気が交錯し、ドル円相場も106―107円台を中心に一進一退を繰り返している。

(ロイター外為フォーラムより)

その背景には、新年度に入って欧米向け合併・買収(M&A)見合いの投資玉など一部本邦企業による活発な円売りが続いていることもありそうだ。

それが、年初来の円高地合いを押しとどめる要因の1つになっているのだろう。

では、今後の円相場の鍵を握る材料は何か。

安倍政権の不安定化やシリア・北朝鮮などの地政学問題もあるが、やはり米中貿易摩擦こそが相場の方向を決定付ける最大の材料ではないだろうか。

トランプ米政権が仕掛けている日米通商問題にしても、その着地点は十中八九、米中関係次第と言っていいだろう。

つまり、中国との対立がヒートアップし続ける限り、トランプ政権は同盟国である日本との緊張関係を極力避けようとするだろうが、和解に向かうならば、遠慮なく日本をたたくかもしれない。

また、米中関係が膠着(こうちゃく)状態ともなれば、今秋の米中間選挙前に手っ取り早く成果を得ようと、与(くみ)しやすい日本に対し高圧的に出る可能性も否めない。

それは、斉藤洋二氏日銀緩和に対する露骨な批判という形で、日本の経済政策の手足を縛る可能性もある。ついては、円相場と日本経済の行方を大きく左右しかねない米中貿易摩擦の今後に関して考察したい。

自国優先を振りかざすトランプ政権は、ここにきて中間選挙を強く意識してか、シリア攻撃の成果や対北朝鮮交渉進展のアピールに躍起になる一方、「中国製品に最大45%の関税をかける」との2016年大統領選での公約を蒸し返している。

トランプ政権の理念的支柱と言われたバノン氏が昨夏、大統領首席戦略官・上級顧問の職を辞し、ホワイトハウスを去ると、政権内の人事が流動化。

高官辞任や解任のうわさが飛び交い、実際、ここ数カ月で、その多くが現実のものとなった。

経済政策の司令塔である国家経済会議(NEC)委員長には、親ビジネス派と言われたコーン氏に代わって、中国の知的財産権侵害などを問題視していたカドロー氏が就任。

国家安全保障担当の大統領補佐官には、トランプ大統領との不和が報じられていたマクマスター氏に代わって、保守強硬派のボルトン氏が就いた。

国務長官もティラーソン氏が解任され、後任には中央情報局(CIA)長官のポンペオ氏が指名された。

政権内では、対中強硬派のナバロ通商製造政策局長やライトハイザー通商代表部(USTR)代表も存在感を増しており、保護主義者による鉄壁の布陣が出来上がったと言えよう。

3月後半には、鉄鋼・アルミニウムの関税を引き上げる輸入制限を発動したことに加えて、知的財産権侵害を根拠に中国を狙い撃ちする追加関税を発表。

さらに中国がこれに応酬してきたため、トランプ大統領は1000憶ドルの追加関税を検討するよう新たにUSTRに指示した。

一部には、通商面での強硬姿勢はあくまで「中間選挙対策」だとの見方も根強いが、たとえそうだとしても、政権の布陣や行動を見る限り、貿易赤字削減に向けた米政権の本気度を疑う余地は乏しく、秋口以降にトーンダウンする保証はない。

こうした中、一帯一路構想は巨大なインフラ投資をもたらすことから中国国内で余剰となった鉄鋼やセメントなどの格好の受け皿となる。

同時に米国へも大量の過剰生産物が流れて、トランプ大統領が言うところの「世界史上最大で制御不能」の対中貿易赤字をもたらし、ラストベルト(中西部の工業地帯)の労働者層を直撃している。

とはいえ、報復関税の応酬が進むと輸入財の価格が上昇し、国際貿易は縮小、ついに世界的な景気後退に至る。

貿易戦争に勝者がいないことは歴史が証明している。

振り返れば、故鄧小平氏が改革開放へと舵を切ったのは今から40年前の1978年。それを機に、中国経済体制の変革が始まり、1990年代初頭以降、投資と輸出主導で高成長を達成してきた。

その後の状況は、1950―70年代の高度成長期を経た日本の姿とオーバーラップする。日本は1980年代以降、米国との間で深刻な貿易摩擦に直面。プラザ合意を経て急激な円高に見舞われ、日米構造協議などを通じ市場開放を迫られた。

まさに現在の中国は、米国との通商関係において、同じ道のりを歩もうとしていると言えよう。

実際、1980年代にレーガン政権下のUSTR次席代表として対日交渉に携わったライトハイザー氏が、今回はUSTR代表として旗を振ることを見ても既視感にとらわれる。

つまり、米中貿易摩擦は一過性の問題ではなく、今後時間をかけながら中国の市場開放、経済構造改革、人民元相場の大幅調整が図られていくのではないだろうか。

また、習主席自身、その本音は見えないものの、トランプ大統領への歩み寄りとも取れる発言をこのところ繰り返している。

10日には海南省博鰲(ボアオ)で開催された国際経済会議「ボアオ・アジアフォーラム」で、自動車を含む一部製品の輸入関税を年内に引き下げる方針を表明。

トランプ政権が問題視している知的財産権の侵害行為についても、法的抑止力を強化する考えを示した。

1980年代から90年代にかけてヒートアップした日米貿易摩擦の経緯を深く研究しているとされる中国は、日本で起きたバブル崩壊や円高不況と同じ轍(てつ)を踏まぬように内需を拡大しながら、緩やかな市場開放と人民元高へとソフトランディング(軟着陸)を目指す可能性が高い。

経済構造改革の必要性は中国側も感じていることから、このタイミングで米国との決定的対立をわざわざ選択することはないだろう。

とりわけ米中間選挙がある今年は、何らかのお土産をトランプ政権に渡すことで(中長期の対米黒字削減「めど」を提示するなどして)、のらりくらりと巧みにかわすのではないだろうか。

翻って日本は、中国、メキシコに次ぐ688億ドルの対米貿易黒字(2017年)を稼ぎながら、「中国は黒字削減を約束した。日本はどうするのだ」と問われた時、日米自由貿易協定(FTA)交渉を拒否し続けられるのか。アベノミクスが寄って立つ日銀緩和と円安政策がやり玉に挙がるシナリオも十分あり得るだろう。

実際、米財務省が13日に公表した半期為替報告書は、日本を引き続き監視対象国に指定し、日米貿易不均衡の大きさに改めて懸念を示した。

しかも、円相場について、過去の報告書では実質実効レートでの割安のみに言及していたのに対して、今回は名目レートでも割安だと指摘した。

一部には、米中貿易摩擦の沈静化がリスクオンの円安に作用し、110円程度へドル円を押し上げるとの楽観的なシナリオも台頭しつつあるようだ。

だが実際には、沈静化がもたらすものは、日米貿易摩擦と円高なのではないだろうか。

(筆者:ネクスト経済研究所代表 斉藤洋二氏)

参考サイト


金融庁

経済産業省

財務省