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「新興国通貨ショック」は近いのか(外国為替フォーラム)

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[東京 10日 ロイター] - 米国のインフレ率がじわり上昇する中、米連邦準備理事会(FRB)は、緩やかなペースながら淡々と利上げを継続する姿勢を示している。米国経済が堅調であること自体は昨年と変わらないものの、「低インフレ」「低金利」の「ゴルディロックス(適温相場)」からは徐々に脱する兆しもみえる。

米国の金利上昇が今後続いた場合、心配なのは新興国への波及だ。

特に足元、米金利上昇とドル高に伴って、新興国通貨の下落ペースは加速しつつある。

主な新興国24通貨のうち、年初来対米ドルで上昇しているのは中国人民元とマレーシアリンギ、タイバーツくらいで、他は軒並み下落している。

特にアルゼンチンペソの下落ぶりには目を見張るものがあり、年初来対米ドルで18%に及ぶ(5月9日時点)。

他に目立つところでは、トルコリラが13%、ロシアルーブルとブラジルレアルがそれぞれ10%近い下落幅となっている(全て年初来対米ドル、同9日時点)。

むろん、下落の背景にはそれぞれ異なる事情があるが、これらの国々には、1)経常収支と財政収支が赤字、2)高インフレ、という主な共通点がある。

通常は経常赤字を海外からの投資マネーでファイナンスしているが、米国の金利が上昇すると、新興国から米国へ資本が流出し、新興国では通貨安が進む。通貨安が続くと輸入物価が上昇し、インフレが一段と加速、景気を腰折れさせるリスクが高まる。また、これがさらなる通貨安を生む。通貨安によって、外貨建て対外債務の返済が困難になり、債務危機に陥る恐れも浮上する。

実際、アルゼンチンでは、通貨安を起点に、債券安、株安のトリプル安が誘発されている。アルゼンチン中銀はペソ安に歯止めをかけるため、4月27日に緊急利上げを実施。以降たった8日間で3回の利上げを行い、政策金利(7日物レポ金利)を40%まで引き上げた。また、アルゼンチンのマクリ大統領は5月8日、同国政府が国際通貨基金(IMF)と300億ドルの弾力的信用枠(FCL)設定に向けた交渉を開始したことを明らかにしている。

<アルゼンチンペソ・ショック再来の可能性は>

こうした動きは、2014年1月の「アルゼンチンペソ・ショック」を彷彿させる。同年1月23日、アルゼンチン中銀がアルゼンチンペソ買い介入をやめる姿勢を示したことで、ペソはたった1日で11%も急落。

不透明感が高まる中、グローバルにリスクオフとなり、日本にもそのしわ寄せが株安・円高という形で波及した。

現状は当時との類似点もある。アルゼンチンペソ・ショックに先立ち2013年5月、バーナンキFRB議長(当時)が「量的緩和縮小(テーパリング)」を示唆し、米国金利の急騰とともに、株安、新興国通貨安が起きた。この「バーナンキ・ショック」後、米10年債利回りは3%付近まで上昇。

FRBの緩和からの出口戦略による米金利上昇とドル高が、結果的に翌年1月のアルゼンチンペソ・ショックの火種となったのである。

今年2月にも米金利急上昇に伴い世界的に株価が急落したが、足元で米10年債利回りは当時と同様に3%付近まで上昇している。こうした類似点をみると、アルゼンチンペソ・ショック再来への懸念も浮上しやすい。

しかし、当時と決定的に異なるのは、アルゼンチンの外貨準備高だ。

当時は相次ぐ介入により外貨準備高が290億ドルまで減少したことで、アルゼンチン中銀が介入の継続を一時断念せざるを得なかったが、現在アルゼンチンの外貨準備高は567億ドルと、当時の約2倍まで回復している。

今回は同国政府が早々にIMFと交渉を開始したことも安心材料となり、昨今のペソ安が4年前のように世界の金融市場を揺るがすほどのショックにつながる可能性は低い。

<前回の「ゴルディロックス」と何が違うか>

ただ、このように新興国通貨には投資家のリスク選好度が如実に反映されるため、特に株式市場との関連性は深く、その動きは警戒しておくべきだろう。

前回「ゴルディロックス」と言われた2004―07年は、市場全体がリスクオンのムードに包まれる中、米株高とともに新興国通貨も上昇を続けた。

新興国26カ国の通貨を指数化したMSCI新興国通貨インデックスはこの間約40%も上昇。
FRBが1%から5.25%まで利上げを続けていたにもかかわらず、リスクオンは長期にわたり続いた。

現在も、2015年12月以降、FRBが極めて緩慢なペースながら利上げを続けているが、米株価とMSCI新興国通貨インデックスは右肩上がりのトレンドを維持しており、前回の「ゴルディロックス」に類似している。

株高・新興国通貨高がひとしきり続いた後、2007年以降サブプライム・ショックやリーマン・ショックといった金融ショックによって世界的にリスクオフに転じたことを踏まえれば、「足元の株高・新興国通貨高はいつまで続くのか」といった不安もよぎる。

しかし、これまでと比較すると、主に3点ほど重要な相違点もみられる。

第1に、新興国通貨の上昇にはまだ前回の「ゴルディロックス」ほどの過熱感はみられない。
前回、新興国通貨インデックスは約40%も上昇したが、今回は同インデックスが底を打った2016年初比で19%と、上げ幅はまだ半分程度にとどまっている。

2001年以降、ブラジル、ロシア、インド、中国の頭文字を並べた「BRICs」(その後、南アフリカも加わって全て大文字の「BRICS」)という造語が脚光を浴び、以降2008年まで新興国通貨全般に一本調子の右肩上がりが続いたが、足元の新興国通貨インデックスの上昇は2014―15年の原油安と2015年夏の人民元切り下げに伴う「チャイナ・ショック」による大幅調整(約15%)を経た後の反発局面であり、前回の約7年にも及ぶ新興国フィーバーとは環境が異なる。

投資家も米金融ショック以降何度か新興国通貨の急落を経験しており、新興国投資には前回より慎重だろう。

<米利上げ速度と「フラジャイル5」の状況も異なる>

第2に、米国の利上げペースも異なる。前回は2004年6月から2年で4.25%もの利上げとなったが、今回は2015年12月から2年で1.5%とペースは緩慢だ。

米消費者物価指数(CPI)の前年比は、総合指数も、食品とエネルギーを除いたコア指数も2.0%を上回っている。
しかし、これは前年の携帯電話サービス料金値下げの裏返しである上、IT化という構造的な要因も物価を抑えるため、インフレは緩やかな上昇にとどまり、今後FRBが利上げペースを一段と加速するリスクは低いだろう。

第3に、バーナンキ・ショックの際に注目された「フラジャイル・ファイブ」の動きも異なる。
トルコ、インドネシア、インド、ブラジル、南アフリカは、海外からの資本流入に特に頼っている国々だ。体質的に米国の利上げに弱く「脆弱な5通貨=フラジャイル・ファイブ」と呼ばれ、バーナンキ・ショック後の4カ月間で15―30%下落した。

一方、2018年2月の米長期金利急上昇以降5月9日までで、トルコリラは13%、ブラジルレアルは10%とやや下げ足を速めているものの、他はインドネシアルピアが4%、インドルピーが5%、南アフリカランドが4%と、まだ下げ幅は小さい。

むろん、新興国にとって米国の利上げや保護主義など、逆風は徐々に強まっているため、新興国通貨の急落がリスクオフにつながり、間接的に円高へ波及するリスクは警戒すべきかもしれない。

ただ、上述した過去との環境の相違点を踏まえれば、新興国通貨の下落が世界の金融市場にショックを与えるようになる可能性は、今のところまだ低いのではないか。

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