世界経済と日銀緩和、日本に追い風

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日本経済にとって、アベノミクススタート直後の2013年以来の追い風が吹いている。

世界経済が回復基調を続けるなか、米欧日の中銀の政策スタンスの「差」を意識した日本株への資金流入が背景にある。

米長期金利US10YT=RRの上昇が緩やかであるため、景気拡大の波は長期化しそうで、その点でも日本経済にはプラスとなる。

「死角」なしに見える前途にあるリスクは、北東アジアと中東の地政学リスクではないか。

<25年ぶり日本株高の構造>  

今年夏場を迎えても、国内勢の日本株に対する見方は慎重だった。

ロイターが実施した国内機関投資家を対象にした今年下半期の運用計画インタビューでも、日本株を買い増すとの見解は皆無。

ましてバブル崩壊後の高値を抜け、25年ぶりの水準まで日経平均.N225が買い進まれると見ていた参加者は、あまりいなかったと言っていいだろう。

米経済の拡大は、各種の指標を見てもはっきりしており、年央から欧州経済の復調も鮮明化。

中国経済の堅調な需要動向もあいまって、だれの目からみても、足元における世界経済の回復基調ははっきりしてきた。

そこに日銀のイールドカーブコントロール(YCC)政策の継続効果が重なる。

米連邦準備理事会(FRB)の利上げ路線と欧州中銀(ECB)の出口戦略模索が並行して進む中で、日銀の緩和スタンスは際立っている。

世界の需要が強く、超低金利政策が長期化するとわかっている国の株は、「買い」と見る参加者が多くなるのは、ある意味で「教科書」通りの展開と言える。

<上がらない物価と長期金利、景気サイクル長期化要因に>

さらに最近、欧米で注目されているのは、景気が良くなっても物価が上がらず、長期金利も急反発しない現象だ。

まだ、この動きを論理的かつ総合的に系統だてる「学説」は出ていないが、1つだけ明確に言えるのは、かつての景気拡大期と比べ、物価と長期金利の上がり方が緩やかなため、「強烈」な引き締め策を実行しなくてもいいことだ。

過熱する景気を冷ますため、思い切った引き締めを実行すると、その拡大局面はやがて終えんする。

しかし、足元の拡大局面では、物価も長期金利も上がり方が緩やかで、FRBが来年に入って1回に50bpの利上げを強いられると見ている参加者はゼロだ。

逆に言えば、政策的な「圧迫」なしに景気拡大が進むので、予想以上に拡大局面が長期化する可能性がある。

世界経済の拡大が長期化すれば、超低金利を続ける日本にとって、強い追い風となるだろう。

<気になる北朝鮮と中東>

まさに「言うことなし」の順風満帆な環境が、この先に広がっているように見える。
だが、長い世界の歴史を遡ってみても、「好環境」が数十年も継続したことはない。

どこかにリスクが潜んでいると見た方が合理的だ。

では、そのリスクはどこに隠れているのか──。

北東アジアと中東の地政学リスクが「火種」になる可能性を懸念する。

北東アジアでは、やはり北朝鮮情勢から目が離せない。

北朝鮮は9月15日のミサイル発射以降、動かずにいる。

ただ、トランプ大統領は「全ての選択肢がテーブルの上にある」と繰り返し、軍事的オプションの行使を否定していない。

偶発的な衝突が、全面的な軍事紛争に発展するような事態になれば、世界の市場は全く織り込んでいないために、予想外の大変動を直面しかねない。

また、中東でも今月4日、イエメンの反体制派がサウジアラビアに弾道ミサイルを発射。
サウジアラビアはイランが武器を提供したと主張。
イランが関与を全面的に否定する声明を発表するなど緊張が高まっている。

シリア情勢をめぐっては、米国やロシアの利害も複雑に絡まり、紛争の素地は中東の広範な地域に点在している。

「死角なし」の相場にも、必ずリスクが潜んでいる。今後は、ささいな軍事情報にも目を向けて、冷静に情勢分析するのが、いいかもしれない。

好調だった世界経済

2017年は欧米経済が好調だった。

特にユーロ圏はフランス大統領選で親EU派のマクロン氏当選等による政治的不安の後退で、6年ぶりの水準まで製造業の景況感が上昇している。

米国の製造業景況感指数も6年ぶりの水準まで上昇しており、景気は底堅いといえる。

これを受けて日本も、欧米に比べてペースが緩いが、景気は拡大している。

不動産市場を中心に警戒された中国経済も、金融市場は引き締め方向に進んでおり、バブル崩壊リスクの軽減や、商品市況の安定などにより、実体経済も今のところ安定している。

米景気と五輪効果の持続性

ただ、これまで世界経済が好調だったのも、アメリカ経済が長く拡大してきたからこそ続いてきた部分も大きい。

アメリカ経済は景気が拡大を始めてから8年以上が経過している。

しかし、過去のアメリカの景気回復期間の平均は5年程度であることからすれば、そろそろアメリカ経済も景気回復の終盤に差し掛かっている可能性がある。

当然、アメリカも景気後退期に入れば金融緩和の方向に向かうため、ドル安円高により株価が下落し、日本経済の足かせになる可能性があるだろう。

実は、近年のアメリカの景気循環には法則がある。

アメリカのGDPギャップのデータによれば、需要が供給能力を上振れすると物価が上がるため、FRB(米連邦準備制度理事会)がインフレの加速を抑えるために金融引き締めを強化することにより景気後退に入っている。

リーマン・ショックで大変な需要不足が生じたため、8年間景気回復が続いてもGDPギャップは依然としてマイナスである。

しかし、2018年に法人税減税やインフラ投資の効果が出現すれば、需要が刺激されることになるため、需要が供給を上回ることになり、その後の金融引き締めにより、早ければ19年頃にアメリカ経済が景気後退に入ってもおかしくないという見方もできる。

日本経済を考えても、東京オリンピック・パラリンピックの効果は主に建設投資であり、ピークは開催年の1年前の19年に訪れる可能性が高い。

さらに、19年10月に消費増税も予定されているが、本当に上げられるのかわからない。

ただ、景気に関係なく消費税を上げてしまう可能性もあり、これが目先の日本経済の最大のリスクだと思われる。

また、安倍政権の政権基盤の揺らぎがマーケットを通じて日本経済に悪影響を及ぼす可能性もある。

日本株の売買は7割が外国人投資家であり、安倍政権の政権基盤が盤石なほど、外国人投資家が日本株を買い、基盤が揺らぐほど日本株は売られる。

従って、18年9月の自民党総裁選の行方次第では、アベノミクスが終了する可能性があり、そうなれば日本経済も後退を余儀なくされる可能性がある。

リスクは朝鮮半島情勢と保護主義

アメリカ経済のリスクは引き続きトランプ政権の政策運営だろう。

法人税減税やインフラ投資により経済が良くなれば金利が上がってドル高になり、レパトリ(海外に投資されていた資金が本国に還流すること)により経常赤字の新興国が経済危機、通貨危機に陥る可能性もあろう。

また、北朝鮮とアメリカの関係もリスクである。

特に北朝鮮と日本は地理的に近いため、万一ミサイルにより国内で被害が出るようなことがあれは、経済へのマイナス影響が大きくなろう。

実は、リーマン・ショックの79年前には世界恐慌があり、それ以降の流れが現在と似ているという事実がある。

世界恐慌の後は、世界中がデフレになったため、デフレを克服するために、金本位制からの離脱をして通貨流通量を増やし、通貨の価値を下げた。

リーマン・ショックの後も同様に先進国は量的緩和政策で通貨の量を増やし、デフレを克服した。

ただ、いずれも100年に1度の金融危機の後遺症は大きく、現在も表面上経済は戻ったかもしれないが、所得格差の拡大等で国民の不満は解消されていない。

実は1932年にもブロック経済により、イギリスから保護主義の台頭が始まった。

今回の2016年のイギリスの国民投票結果やトランプ政権誕生もある意味で保護主義の台頭といえよう。

今回、この点に関しては、むしろ17年の日欧EPA(経済連携協定)の基本合意のように、抵抗する動きもあるが、やはり保護主義の台頭には注意が必要であろう。
(第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)

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